使用貸借と借地権の認定

地代を払っていない同族会社に底地を売ったとき、その価格は通るのか

地代も権利金も一度も授受していない。契約書もない。無償返還の届出書も出していない。
そのような土地を、借りている同族会社へ「底地の価格」で売却した場合の税務上の整理を、条文・通達・公表裁決に沿って確認します。

同族会社が親族の土地の上に建物を建てて事業をしている。
ただし地代のやり取りは一度もしていない。この状態は、中小企業では珍しくありません。

問題が表面化するのは、その土地を売買するときです。
「地代を払っていないのだから借地権はない。したがって売買の対象は土地の全部(更地)である」と考えるか、「借地権は会社側にあるのだから、地主が売れるのは底地だけである」と考えるかで、適正な売買価格が数千万円単位で変わります。

直感的には前者が正しそうに見えます。しかし借主が法人である場合、結論は逆になる可能性が高いというのが、通達と公表裁決から導かれる答えです。以下、順に確認します。

設例

以下の数値は、理解のための設例です。特定の事案の数値ではありません。

不動産鑑定士による評価と、売買価格は次のとおりとします。

項目金額更地比
更地の通常取引価格(鑑定)1億2,000万円100%
借地権割合(鑑定が採用)45%
底地部分の評価額=売買価格7,500万円62.5%
相続税評価額(自用地・路線価)6,800万円56.7%
路線価図の借地権割合40%
問われること

この売買で、税務上の目的物は底地なのか、それとも更地なのか。
更地だとすれば、更地価格1億2,000万円との差額4,500万円が、どこかで課税されることになります。

出発点|「使用貸借だから何もない」は、借主が法人だと通らない

個人どうしの貸し借りであれば、答えは単純です。
使用貸借に係る土地の使用権の価額は零として取り扱われ、土地は自用地として評価されます。

ところが、その取扱いを定めた通達自身が、適用範囲を限定しています。

なお、この取扱いは、個人間の貸借関係の実情を踏まえて定めたものであるから、当事者のいずれか一方が法人である場合のその一方の個人については、原則として、従来どおり法人税の取扱いに準拠して取り扱うこととなることに留意されたい。

昭和48年11月1日 直資2-189・直所2-76・直法2-92「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」柱書

つまり「地代を払っていないから使用貸借であり、借地権は存在しない」という整理は、借主が法人である場合には使えません。
法人税の取扱いに引き直されることになります。

法人税の通達は、届出書の有無で分岐している

では、その法人税の取扱いはどうなっているか。
鍵になるのは、権利金の認定課税を見合わせる要件を定めた通達です。

法人が借地権の設定等により他人に土地を使用させた場合(中略)その借地権の設定等に係る契約書において将来借地人等がその土地を無償で返還することが定められており、かつ、その旨を借地人等との連名の書面により遅滞なく当該法人の納税地の所轄税務署長(中略)に届け出たときは、13−1−3(中略)にかかわらず、(中略)相当の地代の額から実際に収受している地代の額を控除した金額に相当する金額を借地人等に対して贈与したものとして取り扱うものとする。

使用貸借契約により他人に土地を使用させた場合(13−1−5の取扱いの適用がある場合を除く。)についても、同様とする。

法人税基本通達13-1-7(権利金の認定見合せ)

注目すべきは第2文です。
「使用貸借契約により他人に土地を使用させた場合についても、同様とする」と定めています。

これは使用貸借であっても、届け出て初めて認定が見合わされるという建付けです。
裏を返せば、届出がなければ、使用貸借であっても権利金の認定が前提になります。

同じ構造は、借地の返還時の取扱いにも現れます。

(1) 借地権の設定等に係る契約書において将来借地を無償で返還することが定められていること又はその土地の使用が使用貸借契約によるものであること(いずれも13−1−7に定めるところによりその旨が所轄税務署長に届け出られている場合に限る。)。

法人税基本通達13-1-14(借地権の無償譲渡等)(1)

括弧書きが「いずれも」と明記しています。
無償返還の定めがある場合も、使用貸借の場合も、どちらも届出が条件だという意味です。

ここまでの整理

通達は「使用貸借であっても、届出がなければ税務上は借地権の存在を前提に扱う」という立場を採っていると読むのが自然です。
つまり届出書を出していないことは、この場面では借地権があることを示す方向に働きます。

同じ事実関係の公表裁決がある

通達の読み方だけでは心もとないところですが、設例とほぼ同一の事実関係を扱った公表裁決があります。

平成15年5月19日裁決(裁決事例集第65集721頁)

審判所が認定した事実関係は次のとおりです。

この事実関係に対する判断が、次のものです。

将来無償で返還されるという特別の事情のない限り、被相続人が同社に対して無償で使用することを許諾したときに、同宅地に借地権が設定されたものと認めるべきである。(中略)無償返還届出書は提出されていないことから特別の事情は存在せず、また、過去に借地権の認定課税が行われていないとしても、そのことが利用関係に影響して借地権の目的となっているか否かを左右するものでないことは明らかであるから(中略)同宅地は借地権設定の目的となっている宅地と認めるのが相当である。

平成15年5月19日裁決(裁決事例集第65集721頁)

「無償で使用することを許諾したとき」という表現のとおり、地代が完全にゼロの状態で借地権の存在を認めています。

この裁決には、もう一つ重要な性格があります。
これは課税庁の主張(自用地評価)を排斥し、納税者に有利な方向で適用された裁決だという点です。
課税庁に都合のよい理屈ではなく、納税者側が援用して勝った先例である、ということになります。

帳簿に借地権がなくても、結論は変わらない

「会社の決算書に借地権が載っていないのだから、借地権などないはずだ」という反論は、実務でよく出てきます。
この点については、より新しい裁決が正面から答えています。

本件会社の貸借対照表に借地権の計上がなく、過去に権利金を認定した課税が行われていないことが推認されるとしても、そのことが本件(中略)の利用関係に影響して借地権の目的となっているか否かを左右するものではない

令和元年8月19日裁決

この裁決自体は、評価時点で月3万円の地代の授受があった事案ですので、「地代ゼロでも借地権を認めた先例」として引用することはできません。
価値があるのは、帳簿の記載と過去の課税の有無が結論を左右しないと明言した点、そして平成15年裁決の判断枠組みが16年後も維持されていることを示した点です。

価格の水準そのものも、説明しやすい位置にある

設例の売買価格7,500万円は、更地の62.5%にあたります。
これは路線価図の借地権割合40%を前提とした底地(更地の60%=7,200万円)を上回り、自用地としての相続税評価額6,800万円も上回っています。

底地の価格水準については、次の判示があります。

底地価額は単なる地代徴収権の価額にとどまらず、むしろ将来、借地権を併合して完全所有権とする潜在的価値に着目して価額形成されているのが一般的である

平成15年9月2日裁決(裁決事例集第66集265頁)

借地権者が底地を買い取る場合、不動産鑑定評価基準では限定価格を求めることとされており(総論第5章第3節「借地権者が底地の併合を目的とする売買に関連する場合」)、通常の底地価格を上回るのが通例です。
底地割合55%を上回る62.5%という水準は、この考え方と整合します。

では「地代を遡って作る」対応は有効か

この局面でしばしば検討されるのが、「過去に地代の支払いがあったことにして帳簿を整理し、賃貸借契約書を作成する」という対応です。
借地権の存在を補強しようという発想ですが、次の4つの理由から、実行しない方がよいと考えられます。

  1. 効果がない 相当の地代は、更地価額のおおむね年6%とされています。ここは通達が二階建てになっており、法人税基本通達13-1-2の本文は現在も「おおむね年8%」のままで、平成元年3月30日 直法2-2「法人税の借地権課税における相当の地代の取扱いについて」が当分の間これを年6%と読み替えています。
    設例で相当の地代を計算すると年400万円台になります。仮に年60万円程度の地代を計上しても、「権利金の授受なし、かつ相当の地代未満」という状態は何も変わりません。適用される通達も結論も動きません。
  2. そもそも損金にならない 法人税法22条3項2号は、債務の確定しない費用を損金から除いています。その判定基準である法人税基本通達2-2-12は、事業年度終了の日までに債務が成立していること、給付の原因となる事実が発生していること、金額を合理的に算定できることの3つを要求します。
    契約が存在しなかった以上、過去の各事業年度末の時点で債務は成立していません。事後に契約書を作っても、過去に債務が成立していたという事実は作れません。
  3. 新たなリスクを作る 法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針。課法2-8ほか、平成12年7月3日)は、隠蔽または仮装に該当する事実の例示として「相手方との通謀による虚偽の証ひょう書類の作成」を挙げています。同族会社と支配株主との間で過去の日付の契約書を作成する行為は、この例示に当てはまるおそれがあります。重加算税は35%です(国税通則法68条1項)。
  4. かえって不利に働く 税負担の軽減を動機とする事後の権利関係の整備について、審判所が「相続税の軽減という動機を経済的、実質的に行為化したもの」と評価した例があります(平成8年12月9日裁決・裁決事例集第52集128頁)。
    今になって地代を作ることは、「借地権はなかったから、今それを作っている」という自白と受け取られかねません。

なお、契約書の作成日を遡らせた事案でも重加算税が否定された裁決はあります(平成16年5月19日裁決・裁決事例集第67集103頁)。
ただしその理由は「その日付が課税要件事実の判定要素ではなかったから」です。
賃貸借の開始時期は借地権の発生時期そのものであり、まさに課税要件事実の判定要素にあたりますので、この裁決の射程には入りません。

今から無償返還届出書を出してはいけない

最も注意すべき点

「届出書を出していないことが問題なのだから、今からでも出しておこう」という発想は、この場面では最悪の一手になります。

技術的には、今からでも提出は可能です。届出書の提出期限を定めた規定はなく、遅れて提出された届出書を有効と扱った裁決も存在します。
しかし、提出すると次の取扱いを自ら呼び込むことになります。

(注) 使用貸借に係る土地について無償返還届出書が提出されている場合の当該土地に係る貸宅地の価額は、当該土地の自用地としての価額によって評価するのであるから留意する。

昭和60年6月5日 直資2-58・直評9「相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて」第8項(注)

つまり届出書を出せば、「借地権はない」という前提を自ら作り出すことになります。
底地の売買であったという主張の土台が、そこで崩れます。

仮に更地の売買と認定された場合、何が起きるか

見立てが外れる可能性もあります。その場合の帰結を、当事者ごとに整理します。

当事者課税関係根拠
売った個人 追加の所得税は生じない
みなし譲渡が適用されるのは対価が時価の2分の1に満たない場合。設例は62.5%で2分の1を上回る
所得税法59条1項2号
所得税法施行令169条
買った法人 受贈益が生じる
更地価格との差額(設例では4,500万円)が益金に算入される。法人税では「著しく低い」かどうかを問わない
法人税法22条2項
法人の他の株主 贈与税の問題が生じうる
株式の価額の増加部分について、譲渡した者からの贈与とみなされる。譲渡した本人が100%株主なら生じない
相続税法9条
相続税法基本通達9-2(4)

個人が2分の1基準をクリアして無税である一方、法人側だけに課税が残るという非対称は、実際に生じています。
広島地裁平成18年11月30日判決(平成15年(行ウ)第31号ほか)は、個人が出資全額を保有する同族会社へ土地を譲渡した事案で、裁判所が認定した時価に対する対価の割合は約51%でした。
2分の1を上回るとして個人側の更正処分は全部取り消され、法人側の課税は時価を減額したうえで維持されています。

この判決は、借地権の存否を争点とする事案ではありません。
あくまで低額譲渡における2分の1基準の非対称を示す事例として参照すべきものです。

見落としやすい2つのリスク

1|高い値段で買った側のリスク

設例では、鑑定の借地権割合45%の裏返しである底地割合は55%です。
これに対し実際の売買価格は更地の62.5%でした。通常の底地価格より高く買っていることになります。

借地権者が底地を買い取る場合の限定価格として説明できる差ですが、鑑定評価書が価格の種類を明示していない場合、法人から個人への利益の移転(法人側で寄附金または役員給与)と指摘される余地が残ります。
鑑定評価書の「価格の種類」欄を確認しておくことをお勧めします。

2|将来の相続における株式評価

財産評価基本通達185により、課税時期前3年以内に取得した土地は「通常の取引価額」で純資産価額に算入されます。

したがって取得から3年以内に個人に相続が発生した場合、法人株式の評価上、この土地は路線価ではなく更地の取引価額で評価されることになります。
現金を受け取った代わりに株式の評価が上がるという構図ですので、相続対策全体での効果を検証しておく必要があります。

まとめ

結論

地代も権利金も授受せず、契約書も無償返還届出書もない状態で同族会社に底地を売却した場合、底地の売買として整理する立場は維持できる見込みが高いと考えられます。
「地代を払っていないから借地権はない」という直感とは、逆の結論になります。

実務上、この場面で取るべき対応は次の3点に整理できます。

なお、ここで参照した公表裁決はいずれも相続税の財産評価の事案です。
譲渡の場面で借地権の存否が正面から争われた公表裁決・判決は見当たりませんでしたので、射程を争う余地は残ります。
その意味で、結論は「確実」ではなく「見込みが高い」という水準にとどまります。