低額譲渡と役員給与の認定

借地権のない土地を「底地の価格」で役員に売ったら何が起きるか

自社の土地の上に自社の建物を建てて事業をしてきた会社が、その土地だけを社長個人へ売却した。
価格は不動産鑑定士が算定した「底地」の価格である。しかしその土地に借地権は存在していなかった。
この場合の課税関係を、条文・通達・判例・公表裁決に沿って確認します。

同族会社が所有する不動産を、社長個人へ移す。
相続対策や資産管理の見直しの場面で、しばしば行われる取引です。

このとき価格の根拠として不動産鑑定を取ることは、それ自体は適切な手続です。
ところが鑑定が前提とした権利関係と、実際の権利関係がずれていると、鑑定書があることがかえって不利に働くことがあります。

本稿で扱うのは、借地権が存在しない土地について「底地」の鑑定を取り、その価格で売買したという場面です。
結論から言えば、この価格は税務上維持できません。そして負担は法人と個人の双方に及びます。

設例

以下の数値は、理解のための設例です。特定の事案の数値ではありません。

項目金額更地比
更地の通常取引価格(鑑定)1億2,000万円100%
借地権割合(鑑定が採用)45%
底地部分の評価額=売買価格7,500万円62.5%
相続税評価額(自用地・路線価)6,800万円56.7%
路線価図の借地権割合40%
問われること

借地権が存在しない土地を「底地」の価格で売った。
更地価格との差額4,500万円は、どこで、誰に課税されるのか。
そして、決算が締まる前の今、何ができるのか。

出発点|自分の土地に自分の建物を建てても、借地権は生まれない

まず確認すべきは、売買の時点で借地権が存在していたかどうかです。
本設例では存在していません。

借地権を設定する場合においては、他の者と共に有することとなるときに限り、借地権設定者が自らその借地権を有することを妨げない。

借地借家法15条1項

自己借地権が認められるのは、他の者との共有になる場合に限られます。
単独所有の土地に自己の建物を建てているだけでは、私法上も借地権は成立していません。

そして、借地権が存在しないということは、財産評価の構造上、「底地」という評価も成り立たないということです。

借地権の目的となっている宅地の価額は、(中略)その宅地の価額(以下この節において「自用地としての価額」という。)から27((借地権の評価))の定めにより評価したその借地権の価額(中略)を控除した金額によって評価する。

財産評価基本通達25(1)

貸宅地の価額は「自用地としての価額から借地権の価額を控除した金額」です。
控除すべき借地権が存在しないのですから、控除の対象がありません。

同じ判断をした公表裁決

本件土地はその地代等の状況から借地権の設定のある土地とは認められず、更地としての価額を減ずるべき理由はないと認められる。

平成16年3月8日裁決(裁決事例集第67集350頁)

本件法人は対抗力を有しないために借地権が単独で売買される、又は土地の売買が借地権価額を控除した価額によって行われるとは認められず、(中略)かかる借地権を相続財産評価において借地権と評価するには、その実質を欠くものというべきである。

平成20年6月27日裁決(裁決事例集第75集582頁)

価格の水準そのものからも説明が難しい

仮に、最も納税者に有利な構成を想定してみます。
土地の無償返還に関する届出書を提出し、借地権の価額を零としたうえで、相続税評価において自用地価額の80%で評価する場合です(昭和60年6月5日 直資2-58・直評9 第8項)。

その水準は9,600万円です。
設例の売買価格7,500万円は、この最も有利な水準すら下回っています。
つまり、どの構成を採ってもこの価格には届きません。

なお、昭和60年通達および財産評価基本通達は相続税法22条の「時価」に関する通達です。
法人税法22条の2第4項の「引渡しの時における価額」に80%評価をそのまま適用することを認めた資料は見当たらず、あくまで参考の水準としてご覧ください。

法人税は「著しく低い」かどうかを問わない

低額譲渡というと、「時価の2分の1未満でなければ問題ない」「著しく低くなければ大丈夫」という感覚を持たれることがあります。
法人税に関する限り、それは当てはまりません。

譲渡時における適正な価額より低い対価をもってする資産の低額譲渡は、法人税法22条2項にいう有償による資産の譲渡に当たることはいうまでもないが、この場合にも、当該資産には譲渡時における適正な価額に相当する経済的価値が認められるのであって、たまたま現実に収受した対価がそのうちの一部のみであるからといって適正な価額との差額部分の収益が認識され得ないものとすれば、(中略)公平を欠くことになる。

最高裁平成7年12月19日第三小法廷判決(南西通商事件。平成6年(行ツ)第75号、民集第49巻10号3121頁)

さらに平成30年度改正で新設された条文が、この考え方を明文化しました。

(中略)益金の額に算入する金額は、(中略)その販売若しくは譲渡をした資産の引渡しの時における価額(中略)に相当する金額とする。

法人税法22条の2第4項

この「引渡しの時における価額」について、法人税基本通達2-1-1の10は「原則として資産の販売等につき第三者間で取引されたとした場合に通常付される価額」と定義しています。
底地の価格ではなく、更地の通常取引価格が基準になる、ということです。

「著しく低い」を要件とするのは、別の条文

「著しく低い価額」という要件は、次の規定に置かれているものです。
設例の取引には、いずれも適用の場面がありません。

規定要件設例への適用
相続税法7条著しく低い価額の対価個人間の低額譲受の規定。売主が法人のため適用なし
所得税法59条1項2号時価の2分の1未満法人に対する譲渡の規定。買主が個人のため適用なし
消費税法28条1項ただし書おおむね50%未満土地の譲渡は非課税。かつ62.5%で該当せず
法人税法22条2項要件なし適用される

いずれの「逃げ道」も使えず、要件を課していない法人税法22条2項だけが残るという構造です。

法人がある資産を時価より低額で譲受けた場合、時価と譲受価額との差額については無償による財産の取得があったものと考えられ、これを放置することは租税負担の公平を失することになるから、その差額について、法人税法第22条第2項により各事業年度の所得の計算上益金の額に算入すべきであり、この点において、法人税法と相続税法等との間に考え方の差異があるとしても(中略)やむを得ない。

平成14年5月21日裁決(裁決事例集第63集269頁)

差額は役員給与になり、損金にならない

買主が役員である以上、受け取っていない差額4,500万円は、役員に対する経済的利益の供与にあたります。

前三項に規定する給与には、債務の免除による利益その他の経済的な利益を含むものとする。

法人税法34条4項

役員等に対して所有資産を低い価額で譲渡した場合におけるその資産の価額と譲渡価額との差額に相当する金額

法人税基本通達9-2-9(2)(経済的な利益の例示)

文言上、そのまま当てはまります。
そして、この経済的利益は法人税法34条1項が定める三つの類型のいずれにも該当しません。

したがって全額が損金不算入となります。

実際にこの枠組みで課税された裁決

法人の有する建物及び土地の価額は、法人税法第22条第4項に従い、一般に公正妥当な会計処理の基準に照らし、通常の取引がされた場合に成立すると認められる価額として算定すべきものと解される。

平成16年3月16日裁決(裁決事例集第67集447頁)

同族法人が代表者へ建物を低額で譲渡した事案です。
差額約4,150万円が法人税法22条2項により益金に算入され、同時に代表者への賞与と認定されました。
資産は建物ですが、法人から役員個人への低額譲渡について、益金算入と役員賞与の認定が同時に行われるという枠組みは、本稿の設例と同じです。

この裁決のもう一つの示唆

審判所は、課税庁と納税者の双方が主張する価額算定方法のいずれにも合理性を認めず、自ら不動産鑑定士に鑑定を依頼して時価を認定しました。

つまり、鑑定書が存在することは、その価格が通ることを保証しません。鑑定が前提とした権利関係が実際と違っていれば、なおさらです。

誤解しやすい点|「益金が増えて、しかも損金にならない」は二重ではない

ここは説明の仕方で誤解が生じやすいところです。
「益金に4,500万円が加算され、さらに同額が損金不算入になる」と聞くと、課税所得が9,000万円増えるように読めます。そうではありません。

正しくは、次の両建て処理になります。

  1. 譲渡収益を時価で計上する法人税法22条の2第4項により、更地価格1億2,000万円で収益を認識します
  2. 受け取っていない差額を費用に計上する4,500万円は役員に対する経済的利益の供与ですから、役員給与として費用計上します
  3. その費用が損金不算入になる法人税法34条1項により、計上した4,500万円は損金になりません

この両建ては、法人税基本通達2-1-1の10の(注)2が定めています。
同注は、引渡し時の価額が対価の額を超える部分が損金不算入となるものに該当しない場合には両建てが不要である旨を定めており、裏を返せば、本設例のように損金不算入となる場合には両建てが必要になります。

結果として、課税所得の増加は差引で4,500万円の一回分です。

では何が「二重」なのか

実質的な二重は、法人段階と個人段階にまたがるものです。

法人側では、現実に受け取っていない4,500万円が課税所得となり、これに対応する損金がありません。
個人側では、同じ4,500万円が給与所得として所得税・住民税の対象となります。

同じ一つの4,500万円が、法人と個人で二度課税されるという構造です。

個人側にも課税される

買主である役員個人には、給与所得(賞与)として課税されるのが本線です。

物品その他の資産の譲渡を無償又は低い対価で受けた場合におけるその資産のその時における価額又はその価額とその対価の額との差額に相当する利益

所得税基本通達36-15(1)(経済的な利益)

「法人からもらったものだから一時所得ではないか」という整理は、通常は成り立ちません。

法人からの贈与により取得する金品(業務に関して受けるもの及び継続的に受けるものを除く。

所得税基本通達34-1(5)(一時所得の例示)

一時所得の例示そのものが、業務に関して受けるものを除いています。
役員として受ける利益は、この除外に当たります。

会社には源泉徴収義務が生じる

役員給与に該当するということは、支払者である会社に源泉徴収義務が生じるということです(所得税法183条1項)。
徴収の日の属する月の翌月10日が納期限です。

賞与の源泉徴収税額の計算に注意

賞与の源泉徴収は、通常は前月の給与額と扶養親族等の数から求めた率を乗じて計算します。
ただし所得税法186条2項により、賞与の金額が前月中の通常の給与等の10倍を超える場合は、別の算式によります。
賞与の6分の1と前月の通常の給与等を合算して月額表で税額を求め、前月分の税額との差額に6を乗じる方法です。

4,500万円の賞与が10倍以内に収まるには月額報酬450万円以上が必要ですので、通常はこの2項の適用になります。

見落としやすい救済規定

国税通則法67条3項および同法施行令27条の2第2項により、過去1年間に納税の告知を受けたこと等がない場合、法定納期限から1か月以内に納付すれば不納付加算税は課されません。

期間が短いため、気づいたときには過ぎていることが少なくありません。
経済的利益がいつ供与されたと見るかによって起算点が動きますので、まず契約日・決済日・引渡日を確定させることが先決です。所得税基本通達36-12の(注)1は、引渡しの日について「原則として譲渡代金の決済を了した日より後にはならない」としています。

三つの負担を合計するといくらか

負担の内容金額の目安備考
法人税等(法人)約1,510万円4,500万円 × 実効税率 約33.6%
所得税・住民税(個人)約1,930万円
〜約2,520万円
他の所得の有無で変動。上限は最高税率区分の場合
不納付加算税・延滞税別途延滞税は納期限の翌日から2か月まで年2.8%、以後年9.1%(令和8年中)
合計約3,400万円
〜約4,000万円
移転した利益4,500万円の8割前後

移転させた経済的利益のほとんどが、税として出ていく計算になります。
しかも法人側では現金を受け取っていないため、納税資金の裏づけがないまま課税所得だけが立つという状態になります。

法人税等には、事業年度開始日が令和8年4月1日以後であれば防衛特別法人税(基準法人税額から年500万円を控除した額に4%)が上乗せされます。
設例の規模では20万円台から40万円台の上乗せで、結論を左右する水準ではありません。
なお繰越欠損金がある場合は、法人側の負担は大きく変わります。

「売買と同時に借地権を設定した」という説明は使えるか

底地価格を正当化する方向で、次のように構成できないかという発想が出てきます。
売買によって土地だけが個人に移り、会社は建物所有のため土地を使い続けるのだから、そこで会社が借地権を取得したのだ、という説明です。

しかし、どちらの組み立てでも課税は消えません。

構成1|権利金を売買代金から相殺したとみる

会社は更地1億2,000万円で買い、権利金4,500万円を支払って借地権を有償取得した、という構成です。
この場合、個人が権利金4,500万円を収受したことになります。

所得税法施行令79条1項により、借地権設定の対価が土地の価額の10分の5を超える場合に譲渡所得となりますが、4,500万円 ÷ 1億2,000万円 = 37.5%ですので該当しません。
したがって譲渡所得ではなく不動産所得として総合課税されます。個人にとって最も不利な構成です。

構成2|借地権を無償で取得したとみる

会社は底地7,500万円で買い、借地権は権利金の授受なく取得した、という構成です。
この場合、会社に受贈益が立ちます。法人税法22条2項の「無償による資産の譲受け」にあたるためです。

金額は借地権割合40%から45%として、4,800万円から5,400万円程度になります。
差額4,500万円を回避しようとして、それ以上の受贈益を計上することになりかねません。

どちらに寄せても消えない

更地価格と底地価格の差額に相当する金額は、法人側の益金か、個人側の所得か、いずれかで必ず課税されます。
権利関係の構成を工夫することで消せる性質のものではありません。

相当の地代はいくらになるか

借地権の認定課税を避ける方法として、相当の地代を収受するという選択肢があります。
ここで注意が必要なのは、通達が二階建ての構造になっている点です。

(前略)収受する地代の額が当該土地の更地価額(中略)に対しておおむね年8%程度のものであるときは、その地代は(中略)相当の地代に該当するものとする。

法人税基本通達13-1-2(使用の対価としての相当の地代)

標題のことについては、当分の間、下記によることとしたから、今後処理するものからこれによられたい。(中略)法人税基本通達13-1-2に定める「年8%」は「年6%」と(後略)

平成元年3月30日 直法2-2「法人税の借地権課税における相当の地代の取扱いについて」

通達の本文は今も年8%のままで、個別通達が当分の間これを年6%と読み替えています。
「13-1-2に年6%と書いてある」という理解は不正確ですので、引用の際は注意が必要です。

計算の基礎金額相当の地代(年6%)
更地価格1億2,000万円年720万円
相続税評価額6,800万円年408万円

計算の基礎については、法人税基本通達13-1-2の(注)1により、課税上弊害がない限り相続税評価額によることができます。
上記の直法2-2は、これに「過去3年間における平均額」を加えています。この過去3年平均が加わるのは相続税評価額の部分だけで、公示価格等から算定した価額には及びません。

実務では、固定資産税の2倍から3倍程度を目安に地代を設定する例が見られますが、その水準は相当の地代には遠く及びません。
また相当の地代はおおむね3年以下の期間ごとに見直しが必要です(法人税基本通達13-1-7の注)。

そして、この方法は売買価格の問題を解決しません。

相当の地代の授受は、売買以後の借地権の認定課税を止める効果を持つにとどまります。
売買の時点で土地の時価が更地価格であったという評価には、影響しません。

決算が締まる前に金額を訂正するという選択肢

ここまでの整理からすると、取りうる対応は売買金額を更地価格へ訂正することに絞られてきます。

訂正の意味を正確に理解する

ここは誤解されやすい点です。
金額を訂正しなくても、法人の益金は既に更地価格で確定しています。法人税法22条の2第4項が、収益の額を契約価額ではなく「引渡しの時における価額」と定めているためです。

訂正が意味を持つのは、益金を増やすからではありません。
受け取っていない差額の相手勘定を「役員給与」から「未収入金または現金」へ変えることに意味があります。

これにより、法人税法34条1項による損金不算入も、個人の給与所得課税も、会社の源泉徴収義務も、いずれも生じないことになります。

いつまでに行うか

経済的利益を供与したかどうかは、引渡しの時点で判断されます。
決算確定前に代金を増額し、実際に回収するか確実な未収入金として計上すれば、「経済的利益の供与はなかった」と整理しやすくなります。
時間を置いてからの巻き戻しは、一旦供与した給与の返還と評価されるリスクが高まります。

また、増額分をどの事業年度の益金とするかについても、明確な定めがあります。

引渡し等事業年度における資産の販売等に係る収益の額につき、その引渡し等事業年度の収益の額として経理していない場合において、その後の事業年度の確定した決算において行う受入れの経理(中略)は、一般に公正妥当な会計処理の基準に従って行う修正の経理には該当しないことに留意する。

法人税基本通達2-1-1の11(注)2

つまり増額分は譲渡した事業年度の益金であり、別の事業年度には送れません。
決算が締まっていなければ当初決算で正しく計上すれば足りますが、締めてしまうと修正申告の世界に移ります。

実務上の手当て

否認されないか

心配されることの多い点ですが、リスクは低いと考えられます。
法人税法132条および所得税法157条は、いずれも「負担を不当に減少させる結果となると認められる」場合の規定です。課税所得を増やす方向の是正は、そもそも要件を満たしません。

唯一の不利な点|消費税

土地の譲渡対価は非課税売上として課税売上割合の分母に算入されます。
増額訂正により非課税売上が増えるため、課税売上割合はさらに低下し、仕入税額控除の減少幅が拡大します。

「たまたま土地の譲渡があった場合の課税売上割合に準ずる割合の承認」という救済がありますが、次の制約があります。

個別対応方式にしか使えません(一括比例配分方式では救済されません)
・95%判定は本来の課税売上割合で行います(消費税法基本通達11-5-9)
・申請書は適用を受けようとする課税期間の末日までに提出し、その翌日から1か月以内に承認を受ける必要があります(消費税法施行令47条6項)

課税期間の末日を過ぎていると使えません。期限管理が要ります。

「なかったことにする」という選択肢について

売買契約を合意解除して元に戻す、という発想も出てきます。
結論としては、当初から譲渡がなかったものとして扱える可能性は低いと考えられます。

国税通則法23条2項3号および同法施行令6条1項2号が定める後発的事由は「解除権の行使によつて解除され、若しくは当該契約の成立後生じたやむを得ない事情によつて解除され、又は取り消されたこと」であり、単なる合意解除は含まれません。

(税負担を免れるための当事者の合意による解除は)請求人の個人的、主観的な事由によるものであり(中略)当事者間における課税要件事実に係る合意解除の私法上の効果は、すでに成立した納税義務に何らの影響を及ぼすものではない。

平成15年6月20日裁決(裁決事例集第65集)の要旨

加えて、登録免許税法31条の還付事由に契約の解除は含まれないため納付済みの登録免許税は戻らず、戻し登記に改めて登録免許税がかかります。
不動産取得税も同様に、条文上は新たな取得として課税されると読めます。
増額訂正よりコストの高い選択肢になる可能性が高いというのが、条文と裁決からの整理です。

訂正しても残る宿題

ここが最も見落とされやすい点です。
売買後、会社は建物を所有したまま個人の土地を無償で使用しています。この状態は、売買価格を訂正しても解消しません。

土地の貸借において当事者の一方が法人である場合には、その間の取引は第三者間における取引と同様の経済的合理性に従い行われるべきであるから、将来無償で返還されるという特別の事情のない限り、個人が法人に対して建物の所有を目的として土地を使用させることを許諾したときに、同土地に借地権が設定されたものと認めるべきである。

令和元年8月19日裁決(裁決事例集第116集)

放置すれば、会社に借地権相当額の受贈益が認定されるリスクが残ります。
対応は、土地の無償返還に関する届出書を提出するか、相当の地代を支払うかのいずれかです。

届出書の手続に注意点があります

法人税基本通達13-1-7は「法人が借地権の設定等により他人に土地を使用させた場合」の規定であり、貸主が法人であることを前提としています。売買後は貸主が個人ですので、この通達が直接適用される場面ではありません。

個人が地主でも届出書を提出できる根拠は、国税庁の手続案内C1-63にある「なお、この届出者は、土地所有者が個人である場合であっても、提出することができます」という記載です。

提出先は土地所有者すなわち個人の納税地の所轄税務署長です。会社の所轄ではありません。通達の条文が「当該法人の納税地の所轄税務署長」と書いているため、取り違えやすいところです。

地代をゼロにしない方がよい理由

届出書を提出する場合でも、地代をゼロのままにするか、固定資産税を明確に超える地代を実際に授受するかで、将来の相続税評価が大きく変わります。

売買後の状態土地の相続税評価小規模宅地等の特例
賃貸借+無償返還届出書自用地価額の80%適用の可能性あり
使用貸借(地代ゼロ)+無償返還届出書自用地価額の100%適用できない

(注)使用貸借に係る土地について無償返還届出書が提出されている場合の当該土地に係る貸宅地の価額は、当該土地の自用地としての価額によって評価するのであるから留意する。

昭和60年6月5日 直資2-58・直評9 第8項(注)

届出書を出しさえすれば80%になる、というわけではありません。地代がゼロだと100%評価です。

小規模宅地等の特例と、3年の壁がないこと

特定同族会社事業用宅地等(400平方メートルまで80%減額)を適用するには、租税特別措置法施行令40条の2第1項が定める準事業、すなわち「相当の対価を得て継続的に行うもの」に該当する必要があります。地代ゼロの使用貸借では要件を満たしません。

実務上きわめて重要な点

貸付事業用宅地等には「相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等」を除く制限がありますが、特定同族会社事業用宅地等にはこの3年の制限がありません。

つまり、今から地代の授受を開始しても、3年を待つ必要がありません。
気づいた時点で手当てをすれば間に合う、ということです。

ただし取得者要件があります。
租税特別措置法施行規則23条の2により、土地を取得する親族は申告期限においてその法人の役員である必要があります。あわせて申告期限までの保有継続・事業継続も要件です。

なお、80%評価により控除された20%相当額は、昭和43年10月28日 直資3-22により、その同族会社の株式の評価上、純資産価額に算入されます。
個人と法人を通じて100%が顕現する設計ですので、「80%になる」だけを見て有利と判断しないことが必要です。

見落としやすい論点

会社法上の承認手続

役員が会社から財産を譲り受ける行為は、会社法356条1項2号の直接取引にあたります。
ここで注意すべきは、同法365条1項が読み替え規定である点です。

取締役会設置会社における第356条の規定の適用については、同条第一項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。

会社法365条1項

取締役会設置会社であれば、法定の承認機関は取締役会です。
臨時株主総会の決議を経ていても、それは法定の承認になりません。定款と登記事項証明書での確認が必要です。

承認を欠く場合、会社法423条3項1号により任務懈怠が推定され、同428条1項により自己のためにした直接取引については無過失免責もできません。
結果として会社が役員に対して差額相当の損害賠償請求権を持ちうることになり、これを放棄すれば、それが改めて役員給与の問題を生みます。

重加算税は、この段階では過大な心配

不動産鑑定士が作成した実在の鑑定書を用いている以上、書類そのものは真正です。
「相手方との通謀による虚偽の証ひょう書類の作成」(法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)第1の1(2)ロ)に当たるというためには、鑑定士に事実と異なる前提を意図的に伝えた、あるいは通謀したという立証が必要になります。

単に鑑定の前提設定が誤っていたというだけであれば、評価の当否をめぐる争いにとどまると考えられます。

そもそも決算未了・申告前の段階では、過少申告加算税が問題になる場面がありません。加算税は期限内申告書が提出された後の話だからです。今のうちに正しく処理すれば発生しません。

ただし、気づいた後は別

更地価格が同じ鑑定書に記載されていることを認識した後もなお訂正せずに申告した場合には、「当初から過少に申告する意図」を示す事情と評価されるおそれが高まります。

最高裁平成7年4月28日判決(民集第49巻4号1193頁)は、「当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をした場合」に重加算税の賦課要件が満たされるとしています。

鑑定の依頼経緯、依頼内容、鑑定人への説明内容の記録を保全しておくことが、実務上の備えになります。

その他

先例の状況について

本稿の整理にあたり、国税不服審判所の公表裁決を分類ごとに確認しましたが、法人から支配株主・役員個人への土地譲渡において、時価を更地価額と底地価額のどちらで見るかを正面の争点とした公表裁決は見当たりませんでした。法人所有建物の敷地を役員個人へ譲渡した事案の時価認定を扱ったものも同様です。

したがって本稿の結論は、条文(法人税法22条2項・22条の2第4項・34条)と最高裁判例、および事案の一部が重なる裁決の組み合わせから導いたものであり、同一事案の先例に依拠したものではありません。

もっとも、借地権が存在しない土地の時価は更地価額であるという判断枠組み自体は、借地権の存否が争われた複数の裁決に共通しています。結論が覆る可能性は高くないと考えられますが、断定はできません。

まとめ

結論

借地権が存在しない土地を「底地」の価格で売った場合、その価格は税務上維持できません。控除すべき借地権がないためです。

差額は、法人側では益金に立ちながら同額が役員給与として損金不算入となり、個人側では給与所得として課税されます。
合計すると、移転させた利益の8割前後が税として出ていく計算になります。

決算が締まる前であれば、売買金額を更地価格へ訂正することで、この構造をまとめて解消できます。益金はもともと時価で確定しているため、訂正の効果は「相手勘定を役員給与から未収入金へ変えること」にあります。

  1. 売買金額を更地価格へ訂正する変更契約書に増加額を明記し、実際に代金を授受するか確実な未収入金として計上します。日付は遡らせません
  2. 売買後の土地の使い方を整理する土地の使用に関する契約書を作成し、無償返還に関する届出書を連名で提出します。提出先は土地所有者である個人の所轄税務署です
  3. 地代を設定する固定資産税を明確に超える水準で実際に授受します。将来の小規模宅地等の特例の可能性を残すためで、3年を待つ必要はありません

この三つは、どれか一つだけでは足りません。
売買価格を直しても土地の使用関係を放置すれば借地権の認定課税が残り、届出書を出しても地代がゼロなら相続税評価は自用地価額のままです。
決算・申告までにセットで整理することが、最も低コストな解決になります。